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NHK 大河ドラマ 「天地人」

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オー・エル・エム・デジタルによるMassive群集シミュレーション 

 massive SOFTWARE社 Massive(マッシブ以下 Massive)という製品名は今では多くのクリエータが知る存在となり、2005年から日本総代理店となっている株式会社クレッセント(以下 クレッセント)では定期的にセミナーも開催し多くのクリエータが参加している。

 しかし、日本ではMassiveを使った製作記事を紹介した例はまだ少なく、多くのクリエータは興味を持っていてもその工程などを見る機会は少ない。今回VIDEO JOURnALではNHK 大河ドラマ 「天地人」のオープニングタイトルと本編の群集シミュレーション製作を担当している株式会社オー・エル・エム・デジタル(以下 OLMデジタル)から協力を頂き、貴重なMassiveによる製作の全てを広くここにお伝えする。

 

 

▲本編で使用された群集シミュレーション映像の1カット。

この規模の群集は映画演出レベルだが、そのカットを毎週作成するためにもMassiveによる高いクオリティと効率化が必要であった。

 

▲Massiveによる、シミュレーションのカット。群集の動きをこのワイヤーフレームの状態で確認を行なう。

  

▲オープニングで流れる暗闇の中での戦闘シーン。この群集は総計4000人に上っていた。この人数でHD解像度になると一度ではレンダリングが回らないため、ファイルを分けレンダリングするなどの工夫がされた。

 

大河ドラマのクオリティを達成するために選ばれたMassive

 OLMデジタルに「天地人」の製作依頼が来たのは2008年春。このドラマではオープニングでも群集シーンの演出があったが、NHKとしても最初は行軍のみCGで群集を作ろうと考えていた。OLMデジタルではクレッセントが開催していたMassiveセミナーに参加していた事もあり、すぐにMassiveを使った製作提案を行なった。OLMデジタル ディレクタ 徳重 実氏(以下 徳重氏)はこの時を振り返り語った。 「WetaデジタルでMassiveがインハウスツールとして作られた後ライセンス販売が始まり、日本でもクレッセントが総代理店となっていましたので、セミナーに参加し情報を集めていました。ロード・オブ・ザ・リングをはじめハリウッド映画でも多く採用された実績や信頼度も高く、TVシリーズの中で群衆シーンを毎週作り上げていくには、このMassiveしかないと思っていました。NHKさんにもMassiveを使う事を打診し、デモ映像をプレゼンした所、そのクオリティを評価して頂き、結果行軍以外の戦闘シーンまで演出が広がっていきました。」

 「天地人」のオープニング映像を見ると群衆が行軍しているシーンと戦闘シーンの双方が入っているが、これはMassiveのクオリティが評価された事で演出が加わり、作り上げられたシーンであった。

 

OLMデジタルにおけるワークフローとMassiveの機能

 OLMデジタルでは、Massive Primeを2ライセンス使いMassiveデザイナ2名で製作を行なっている。当初は1名で製作を行なっていたが、制作ボリュームの増加に伴い、プログラム系のシミュレーションとクリエイティブ系のレンダリングに担当分けする事でクオリティと製作スピードの向上を図った。

 Massiveは自立型群集シミュレータである。そのため、モデリングやレンダリング機能は他のCGツールと連携が必要となる。モデリングでは読み込み形式が対応しているAutodesk Maya、レンダリングではRenderManに最適化されている事からPRManや3Delightなどが使われる事が多い。

 OLMデジタルでは、モデリングはMaya、レンダラには3Delightを採用し、株式会社モズーにて撮影したモーションキャプチャデータを、MotionBuilderで編集しMayaで取り込んだ上でMassiveから、3Delightでレンダリングしコンポジットに送るフローになっていた。(下記フロー図参照)

 

 

 このMassiveがハリウッドでも高い評価を受けている理由としては、Agentと呼ばれる群集を構成するオブジェクトが持つ柔軟性が上げられる。Agentは「天地人」でも見られるように数千に上る人を構成しているオブジェクトを指すが、このAgentはBrainを持ち、ファジー理論を元に視覚・聴覚・触覚を感じてリアクションを行う。Massive内部でAgentを動かす事も可能だが、スケルトン構造に制約がないため、人物だけでなく、動物や樹木もシミュレートでき、モーションキャプチャシステムViconで撮影したデータをMotionBuilderで編集しMaya経由で設定することも可能だ。

 

 元々Massiveが開発された経緯としては、ピーター・ジャクションが「ロード・オブ・ザ・リング」の中で数千に上る兵士の戦闘シーンをソフトウェアで実現するため、Wetaデジタルに所属していた、Stephen Regelous(現 massive software社 Founder and CTO)が開発したのが始まりだ。

 そのため、単純な動きを群集に与えるという考えではなく、演出に必要な条件に沿ったリアクションを自律的に行う設計がされている。

  

 

▲OLMデジタルでは、Massiveの使用環境として日本HP社製 XW4600 ワークステーションにグラフィックボード NVIDIA Quadro FX 4600で製作が行なわれている。

 

「天地人」における群集の製作

 OLMデジタルがMassiveを使い「天地人」のオープニングのプリプロダクション(以下 プリプロ)に入ったのは、2008年7月であった。Massiveは同年6月から使い始めていたが、プリプロが1ヶ月、群集は1ヶ月の期間で作り上げた。OLMデジタル Massiveデザイナ 小嶋 律史氏(以下 小嶋氏)はこの時の状況をこう語った。

「私もMassiveセミナーに参加していましたが、製作で使うのは『天地人』が初めてでした。そのためMayaで指定したカメラモーションのデータやobjファイルがうまく渡らないとか、使っていくうちに様々な問題がでてきました。もし、これが一般的なツールであれば、Tipsとか解決策はWebや書籍で探す手段もあるのですがMassiveはまだユーザ数が少ないので、自分自身で探りながら解決方法を見つけたり、クレッセントのサポートを受けながら一つ一つ問題をクリアし製作を進めていきました。正直大変な時もありましたが、考えながら使いこなしていくうちに自分の身になっていく過程も感じられるようになりましたので、そういった意味で先駆者的にチャレンジをするのはやりがいが感じられます。」

 

 最初はとまどいも多く、しかも最初に製作したオープニングの群集シーンは12秒という尺に4000体という数になったため、ファイルを11に分けてレンダリングを行うなど、一筋縄ではいかなかったが、その完成度の高さが評価され戦闘シーンで群集を使うという演出に広がっていったのだ。

「Massiveの良い点としては、Agentの賢さです。『天地人』では地形をMayaで作って、この上に群集を配置して動かすのですが、起伏があるとその形状に合わせて動くフローフィールド機能により自然なアクションになりますし、また戦闘シーンの製作では建物に沿って群集が分かれて進むなどの動きも必要ですが、このような設定もできるので製作スピードが上がります。また、シミュレータなのでアニメーションも軽く速いので、設定を変えながら演出に合うようなトライアンドエラーもやりやすいです。行軍から戦闘シーンにまで製作の幅が広がったのは嬉しい事でしたが、私1人では作業的に難しくなってきましたので、2名体制としてMassiveによるシミュレーションパートと3Delightでのレンダリングと作業分担を行なう事にしました。2名体制になった事とMassiveの使い方も判ってきたので、群集の動き方にもよりますが、今では2週間程で製作ができるようになりましたね。でも、まだまだ奥が深いツールなので、これからも色々機能の深堀をしてクオリティをさらに上げて行きたいと思っています。」(同 小嶋氏)

 

 ▲Mayaによる地形(左)、これにMassive上で群集を加える(中心)。地形に沿って違和感のない行軍が可能となる(右)。

Mayaにて地形をモデリングし、アクションを設定した群集を合わせていく。山のような起伏が多い地形は時代劇では当然登場するが、自然に群集を歩行させるには手づけでは時間がかかってしまい、毎週放送されるTV番組制作では困難だ。Massiveのフローフィールドは、TVシリーズで要求されるスピードにも対応ができる点が上げられる。

 

▲モーションキャプチャで撮影されたアクションをMayaのモデルに取り込んで、Massiveの群集で使われている。あらかじめ20種類ほどモーションの撮影を行なっておくことで、群集の動きとして違和感のない戦闘シーンから行軍の様子までを作成する事ができる。

 

Massiveから3Delightへのレンダリング

 OLMデジタルでは、レンダラとして3Delightはすでに導入しており、Massiveとの連携においても3Delightとなった。Massiveパートの作業が多くなり、新たにMassiveデザイナに抜擢された宮崎 友真氏はこのパイプラインについてこう語った。

「3Delightは2年程前から導入していましたので、クオリティもノウハウもありましたのでレンダリングとしては心配ありませんでした。しかし、3Delight for Mayaのように整った環境ではなかったので、Massiveからのレンダリングの手続きで試行錯誤がありました。しかし、このような試行錯誤をする事でアプリを知っていくというのは重要なことだと思います。先ほど小嶋からもありましたが、試行錯誤することで機能も見えてきますので、試したいと思う機能もでてきます。例えば、Massiveはスケルトンに制約がないので、人以外のものが大量に発生させて動かす、意思を持ったパーティクルのような動きを試して見たいと思っています。」

 Massiveの開発者でもあるStephenは以前こう語っていたことがある。

「Massiveは今までの演出を大きく変えていくことになる。コンテや企画段階で群集カットが入った場合、撮影プロダクションがエキストラやロケハンを行なうために動く必要があったが、Massiveを使う事でエキストラやロケの心配もコストを気にする必要はなくなる。よく卵が先かニワトリが先かという話があるが、MassiveはMassiveがあるから群集のこのようなカットを作ろうという考え方に変わるだろう。」

 OLMデジタルが実現している製作はまさにStephenのコンセプトに沿った内容であり、「天地人」にて映画クオリティの群集シーンを毎週作り上げるフローを可能とした。この経験とMassiveの知識はこれから他の作品において使われる機会も増え、Massiveを熟知しているOLMデジタルでは、他の製作プロダクションとの大きな差別化要因となった。  OLMでは「Come Smile With Us <感動を世界へ>」というスローガンを持っているが、Massiveを使った群集演出を実現する実力が加わる事で、このスローガンを達成する映像が作られていく。

 

▲OLMデジタル 「天地人」Massive製作チーム

左から、ディレクタ/デザイナ 徳重 実氏、Massiveデザイナ 小嶋 律史氏、Massiveデザイナ 宮崎 友真氏 

 

 

会社名:株式会社 オー・エル・エム・デジタル

設立:1995年

従業員:120名 (3D部門 112名/R&D部門 8名)

概要、代表作:株式会社 オー・エル・エムの3D、アニメーション、R&Dを担当するクリエイティブユニット。代表作として「ヤッターマン/YATTERMAN」「劇場版 ポケットモンスター」シリーズ、TVシリーズ「ケータイ捜査官 7」や映画「クローズZEROII」など子供向けアニメーションから実写映画など多彩なコンテンツを多く手がけ、プリプロからファイナルまでワンストップにてクオリティの高い製作を行なっている。

 

http://www.olm.co.jp/olm/

 

*この記事、会社情報は2009年5月の取材・構成を基に構成されています。その後変更となっている場合もございますのでご了承下さい。

 

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